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Scope3算定の始め方 — 最初の3ステップと詰まりやすい点

網羅ではなく優先順位から入る。該当性スクリーニング→大きいカテゴリ→データ設計の順で前に進める。

2026年6月26日·読了 9分·編集部·脱炭素・エネルギー

要点

  • Scope3算定は「網羅」ではなく「優先順位」から入る。15カテゴリの該当性を絞り、排出の大きいカテゴリ(多くはカテゴリ1)から二次データで概算し、重要な部分だけ一次データへ精緻化する。
  • 最初に効くのは精度ではなく設計。対象年度・基準年・算定方法・データ出所・除外理由を記録する枠組みを初年度から固めれば、翌年の精緻化が積み上げになる。
  • 詰まるのは決まって3点。カテゴリ間の二重計上、排出原単位の出所・基準年の不統一、サプライヤーからのデータ回収率。ここを設計段階で先回りする。

Scope3とは何か — Scope1・2との線引き

Scope1は自社の直接排出(燃料の燃焼、社有車など)、Scope2は購入した電力・熱・蒸気の使用に伴う間接排出を指す。Scope3は、この2つを除いた自社バリューチェーン全体の間接排出であり、GHGプロトコルの企業バリューチェーン(Scope3)基準で15カテゴリに分類される。

この線引きが実務の起点になる。Scope1・2は自社内で計測が閉じるが、Scope3は取引先・使用者・投資先まで排出源が外に広がる。だからデータは「持っていない」状態から始まる。これはScope3算定が計測作業ではなく、まず「どこを・どの精度で追うか」を決める設計作業だということを意味する。網羅を先に狙うと、精度の低い数字を15カテゴリぶん均等に積んで終わる。優先順位から入る理由がここにある。

15カテゴリの全体像(うちカテゴリ3の誤解に注意)

15カテゴリは上流(カテゴリ1〜8)と下流(カテゴリ9〜15)に分かれる。全体像を先に押さえると、後段のスクリーニングで「自社に無いもの」を素早く落とせる。

# カテゴリ 区分
1 購入した製品・サービス 上流
2 資本財 上流
3 Scope1・2に含まれない燃料・エネルギー関連活動 上流
4 輸送・配送(上流) 上流
5 事業から出る廃棄物 上流
6 出張 上流
7 雇用者の通勤 上流
8 リース資産(上流) 上流
9 輸送・配送(下流) 下流
10 販売した製品の加工 下流
11 販売した製品の使用 下流
12 販売した製品の廃棄 下流
13 リース資産(下流) 下流
14 フランチャイズ 下流
15 投資 下流

ここで最も誤解されやすいのがカテゴリ3だ。名称は「Scope1・2に含まれない燃料・エネルギー関連活動」。これは「Scope2と重複するから除外する」カテゴリではない。逆で、Scope1・2で捉えきれない燃料・電力の“上流”を拾うためのカテゴリである。

具体的には2種類を含む。ひとつは、自社が燃焼・使用する燃料そのものの採掘・精製・輸送に伴う排出(燃料の上流=いわゆるWell-to-Tank)。もうひとつは、購入した電力の送配電ロス分など、Scope2の使用段階には算入されない関連排出だ。つまりカテゴリ3は、Scope1(燃料の燃焼)・Scope2(電力の使用)が「使った瞬間」だけを見るのに対し、その燃料・電力が手元に届くまでの排出を補完する。除外ではなく補完だと理解することが、二重計上の回避にも直結する。

ステップ1:該当性スクリーニング

最初の作業は、15カテゴリのうち自社事業に関係するものを洗い出すことである。事業モデルによって該当・非該当は変わる。製造業ならカテゴリ1・11が大きく、リース業ならカテゴリ13、フランチャイズ本部ならカテゴリ14が主役になる。逆に、自社にフランチャイズが無ければカテゴリ14は非該当となる。

重要なのは、非該当と判断したカテゴリほど「除外した理由」を記録に残すことだ。これは後段のレビューや保証対応で必ず問われる。「該当しないから書かなかった」と「該当性を検討した結果、対象外と判断した」は、開示上まったく別の意味を持つ。スクリーニングの成果物は排出量ではなく、15行の該当・非該当リストと除外理由の台帳になる。ここが土台になる。

ステップ2:大きいカテゴリの特定

該当カテゴリが絞れたら、次は排出量の大きいカテゴリを特定し、そこに資源を寄せる。多くの企業でカテゴリ1(購入した製品・サービス)がScope3全体の最大項目になりやすい。原材料・部品・外部委託の調達がここに集まるためだ。

この「大きい順に攻める」判断が、Scope3算定を現実的な作業量に収める鍵になる。15カテゴリを均等に精緻化しようとすると人手が破綻する。全体像を粗く掴んだうえで、排出の大半を占める少数のカテゴリを先に精緻化し、小さいカテゴリは概算のまま置く。全体の精度は、大きいカテゴリの精度でほぼ決まる。だから初手でカテゴリ1に注力するのが定石になる。

ステップ3:一次データと二次データの使い分け

算定に使うデータは二種類ある。二次データは排出原単位を使った概算で、「金額×原単位」または「物量×原単位」で求める。一次データはサプライヤーからの実測値だ。

初年度から全カテゴリを一次データで固める必要はない。むしろ現実解は、初年度は二次データで全体像を作り、翌年以降に重要カテゴリだけ一次データへ切り替えていく段階設計である。二次データは自社の活動量(購入金額や重量)さえあれば算定できるため、サプライヤーの協力を待たずに着手できる。一次データはサプライヤーの実測が要るぶん精度は高いが、回収に時間がかかる。だから「まず二次で埋め、効くところを一次に置き換える」順序が、初年度に前に進む唯一の道になる。精度は一度に上げず、翌年計画に織り込んで段階的に上げる。

詰まりやすい3点と先回り

同じ場所でつまずく企業が多い。先回りできる。

第一に、二重計上。同じ排出を複数のカテゴリで数える、あるいはScope1・2とScope3で重複して数える。前述のカテゴリ3の理解不足が典型で、Scope2で数えた電力使用分をカテゴリ3で再度数えると重複する。カテゴリ間・Scope間の境界を定義段階で明文化しておく。

第二に、排出原単位の出所・基準年の不統一。カテゴリごとに別々のデータベースや年次の原単位を混ぜると、合算した数字の意味が崩れる。使う原単位の出所と基準年を台帳に固定し、混在させない。

第三に、サプライヤーからのデータ回収率。一次データ化を急ぐほどここが律速になる。だからこそステップ3の順序が効く。回収を待つ間も二次データで数字を止めない。

So What(実務含意)— 着手チェックリスト

初年度に「動ける」状態を作るための最小セット。ステップ順に潰す。

  • 15カテゴリの該当・非該当を1行ずつ判定した
  • 非該当カテゴリに除外理由を記録した
  • カテゴリ3を「Scope2の重複」として誤って除外していない(燃料・電力の上流分を拾う補完カテゴリだと確認した)
  • 該当カテゴリを排出規模で粗くランク付けした
  • 最大カテゴリ(多くはカテゴリ1)を初年度の注力先に決めた
  • 初年度は二次データ(金額×原単位/物量×原単位)で全体を埋める方針を決めた
  • 一次データ化する重要カテゴリと翌年計画を切り分けた
  • 使用する排出原単位の出所・基準年を1つに固定した(混在させない)

記録項目として、対象年度・基準年、カテゴリ別の算定方法、データ出所、除外カテゴリの理由、翌年の精緻化計画を台帳に残す。このチェックリストは、SSBJ基準に基づく制度開示や限定的保証への対応でも土台になる。保証範囲は当初Scope1・2から始まるが、Scope3は算定手順・データ出所・除外理由の説明可能性が早期から問われる。最初に効くのは数字ではなく設計である。

本サイトのコンテンツは「情報提供」を目的としたものであり、投資・法務・税務その他の専門的助言を提供するものではありません。規制・基準は改訂されます。意思決定の前に一次ソースと最新情報をご確認ください。

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